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悪い話ではなかった。 ルルーシュのKMF騎乗技術は公表されていないが、皇族なら基本操作は学んでいるだろう。その程度の技術でランスロットをまともに操縦できない。だから、ランスロットを渡すことは、さほど問題ではなかった。 それに、ルルーシュがランスロットのコックピットにたどり着くまでに、必ずナナリーは開放される。なぜならランスロットは破壊した外壁に手をかけた形で停止しているから、乗り込むには体と腕をよじ登らなければならない。そこで、ナナリーは開放される。 日がすっかりと落ちた暗い中、凍えるような寒さと強い風にさらされたルルーシュを抑えればすべて終わる。 こんな状況になれば、フレイヤを即落とすはずなのに、今落とさないのは、先ほどサハラに落としたから、2射目に時間がかかっているのか、あるいは必要が無いと思っているのか。 どちらにせよ現段階で、鉄の棺作戦は失敗したことになる。 いや、スザクが命令違反をして失敗させたのだ。 もし今から鉄の棺作戦を強行するなら、ルルーシュの意識を一瞬寝奪い、生きたまま棺に閉じ込めることになる。 そんな事はさせない、させないためには説得をしなければ。 そう考えていたスザクだが、ルルーシュが主導権を握っていたこの場を覆したのはスザクではなく、ナナリーだった。 スザクとルルーシュのやりとりを静かに見ていたナナリーは、自分を拘束する腕が緩んでいる事に気がついた。そしてゆっくり、二人に気づかれないように行動に移した。 それは、一瞬の出来事だった。 「ナナリー、お前は・・・!」 「お兄様、私が無力だと油断しましたね?」 そう、一瞬。 ナナリーはその手に銃を持ち、ルルーシュの頭に突き付けていた。 ルルーシュが手にしていた銃では無い。 ナナリーは、そのドレスの下に銃を忍ばせていたのだ。 二人が言い合いをするさなか、ドレスをたくしあげ、その太ももに縛り付けていたガンベルトから銃を引き抜くと、迷うことなく銃を向けたのだ。 ナナリーの肩から腕を離し、ルルーシュもまたナナリーに銃を向けたまま少し距離を開けた。互いに、互いの額を狙い、引き金に指をかけていた。 「気が動転して忘れたか?私が死ねば、世界にフレイヤが落ちる」 ルルーシュは動揺していた表情を改め、再び冷酷な笑みを浮かべた。 ナナリーが引く引き金は、ルルーシュの命だけではなく、世界の命を奪う引き金なのだ。それでも引くのか?と挑発するように問いかける。 「お兄様、私を天才だと評価して下さりありがとうございます。その私が、何も考えずに、何も観察せずに、ずっと共にいたとお思いですか?」 「何?」 じりじりと、ルルーシュはナナリーとの距離を開けていく。 ランスロットで逃げるために、大穴へと移動しているのだ。 あまり距離が開けば、撃っても外れてしまうと、ナナリーはゆっくりと距離を詰める。スザクは二人を止めたいが、互いに銃を向け会っている為、どちらかを止めればどちらかが発砲してしまい、無事では済まない事は悟っていた。だから何もできず二人を見ていることしかできなかった。 どちらにせよ、ルルーシュがランスロットに向かうなら、取り押さえるタイミングは変わらないのだから。 「お兄様が死ねば、フレイヤが落ちるというお話は嘘です」 「・・・ほう、言いきるか」 「もし真実ならば、すでにお兄様は4発目を撃たれているはずですから。フレイヤは連射出来ない。そして、全ての発射の命令はお兄様がこの場所で行っていましたね?これを使って」 ナナリーは左手に隠し持っていたモノを差し出した。 それはスイッチが先端についた棒状のもの。 ルルーシュのポーカーフェイスが僅かに崩れた。 「お兄様は今まで、まるで思い描くだけでフレイヤが落ちるかのようにふるまっていましたが、それは違います。これが、フレイヤ発射のスイッチです。照準もあらかじめ設定していたのでしょう?今日のサハラのフレイヤも、私が逆らったからではなく、今日撃つ予定だった・・・違いますか?」 「事前に設定?この場で照準を合わせているのだが?」 「思考を読み、それに合わせて発射される。あるいは特定の電波の送受信で発射される・・・電波が防がれれば発射しかねない不確定要素の多い装置をお兄様が使うとは思えません。設定は他の端末を使っているのではありませんか?そして、おそらく事前に設定できるのは2つが限度なのでは?これだけの凶悪な兵器、お兄様が誰かにその操作を任せるとは思えません。事前操作が必要である以上、・・・お兄様の意思だけで、あるいはお兄様の死で即座にフレイヤが放たれることはありません」 ナナリーは再度ルルーシュの死によるフレイヤ発射は無いと断言した。 |